2000年代初頭のこと……
高知県出身の本好き全盲女子、堀内佳美は、大学生としてタイを訪れました。
そして、アルバイトやインターン、観光などで、地方の村や町をたくさん回りました。
その訪問の中で、本の価格の高さや、特に農村地において図書館が不足しているなどの理由から、
障害のある人も、そうでない人も情報や書籍へのアクセスが非常に限られたものになっていることを知りました。
この時点でタイ語は少し話せるようになっていたものの、このようなプロジェクトをゼロから立ち上げるにはどうしたらよいのか、
ほとんど見当がつきませんでした。
そこで2009年、佳美は南インドにある型破りな社会変革のためのトレーニングコース、
カンターリ・インターナショナル(Khanthari International)に参加しました。
2009年末にコースが終了していったん帰国した後、わずかな知識と経験、そして情熱だけ携えてタイに戻り、
本と人、人と本をつなぐプロジェクトをスタートさせました。
当初は、バンコク市内で楽しい読書活動を行うため、ボランティアグループを募集しては、不定期で読み聞かせ活動を行っていました。
やがて彼女は、バンコク周辺にはすでに同じ分野で活動する団体がいくつかあることから、
プロジェクトの本部を地方に置く必要があると考えるようになりました。
そして、2011年、ウォームハート財団の紹介で、
プロジェクトの中心をチェンマイのプラオに移しました。
2012年初頭、最初の有給スタッフとともに、Warm Heart Foundationを中心に、
移動図書館活動という形で継続的なプロジェクトを開始しました。
その後、太陽の家とランマイ図書館を開設し、2015年には笑顔の家を開設しました。
アークは、2018年6月、多くの方のご支援で、Bookworm Foundation (มูลนิธิหนอนหนังสือ)という名前でタイの法人格を取得しました。
2021年現在アークは、
北部チェンマイのプラオ郡で図書館プロジェクトと識字教育プロジェクトを、
バンコク周辺ででこぼこ絵本プロジェクトを行っています。
首都であるバンコクでは、資金調達のためのイベント開催や講演会なども行っています。
以下の地図で、バンコクとプラオの場所をご確認いただけます。
アークが生まれてから約2年、2012年にこの地に拠点を移してから、有給の職員と共に活動してきました。
拠点を移すきっかけは、プラオで地域開発事業に取り組むウオームハート財団(Warm Heart Foundation)の創設者のひとり、マイケル・シェイファー氏と堀内佳美との出会いでした。
この地域の主な活動は以下の通りです。
・ランマイ図書館:プラオ郡とその周辺地域の住民のために、本やDVDの貸し出しを続けている図書館です。
また、図書館では無料Wi-Fiを提供していて、子供やティーンエイジャーのためのアクティビティエリアや地元のたまり場にもなっています。
2021年現在、蔵書は1万冊を超えています。
・本の虫キャラバン:ピックアップトラックを改造した移動図書館車両、「はるの号」で、プラオ郡全域のお寺や村の広場、子供の施設などを巡回する、子供と大人のための活動です。
・太陽の家: チェンライ県ウィアンパパオ郡シップラン村にある、アカ族とラフ族の子どもたちのための山の上の幼児教育センターです。ナレー先生が、2歳から6歳の子どもたちに、週5日、基本的な読み書きと算数を教えています。
・笑顔の家: チェンマイ県プラオ郡メーウェン小区メーウェンノイ村の谷間にある、主にリス族の子どもたちのための幼児教育センター。クン先生とピム先生が、2歳から4歳の子どもたちに週5日、基本的な読み書きと算数を教えています。
バンコク周辺には、アークの事務所のようなものはありません。でも、タイのボランティアさんや、日本人のサポーターの皆さんに支えられ、主に、以下のような活動を行っています。
・でこぼこ絵本: 国籍の異なる数十名のボランティアスタッフとともに、障がいのあるなしにかかわらず、子どもから大人まで楽しめるオリジナル絵本を制作しています。
点字や大きな文字で描かれた絵本は、ほぼすべてのページが手作業で作られており、目と指で楽しむことができます。
・ファンドレイジング(資金調達): ブックバザーや読書会、堀内佳美の講演会など、さまざまなイベントを企画・実行しています。
アークにとって最も貴重な資産は「人」です。
私たちの仕事は、全面的に応援してくれる運営理事会と、日々の活動を実行するクリエイティブなスタッフたちの共同作業によって成り立っています。
アークを支える個性的なメンバーをご紹介します!
ニックネーム:ピー・ピシット(ピシット兄さん)
「佳美さんのことを知ったのは、ある本がきっかけでした。
私の好きな執筆者の一人、ゲートワディー・マルムラさんが書いた本の最終章で、彼女が紹介されていたのです。
私が住んでいるチェンマイ県で、佳美さんがプロジェクトを行っていることを知り、早速会いに行くことにしました。
それからのご縁です。
財団の理事長である私は、普段は日常業務に口出しすることはありません。
内部の対立や組織の意思決定など、必要なときにはいつでもサポートさせてもらってます。
ビジネスパーソンとして、アークの活動を通じて、社会に貢献できることを嬉しく思っています」
ニックネーム:ポー・トーンカム(トーンカム父さん)
「私は以前、プラオの地元の高校で教師として働いていました。
以前、娘たちがボランティアとして佳美さんと一緒に働かせてもらっていましたし、数年前にはドイツから着たアークのボランティアを、ホストファミリーとして受け入れました。
そんなとき、佳美さんが私に、『運営委員会に入ってくれないか』と声をかけてくれたのです。
今は、自分の住む地域の良い取り組みをサポートするために、できることをさせてもらっています」
ニックネーム:ピー・ベッター(ベッター姉さん)
「お気づきのように、アークのスタッフは、ほとんどが女性です。
ですから、何か問題が起こったときに、同じ女性である私が仲介したり共感したりすると、比較的やりやすいと感じています。
また、アークのスタッフがチェンマイ市内に出てくる時にもサポートすることがあります」
ニックネーム:ピー・ヨー(ヨー姐さん)
「物心つくかつかないかの頃から家族に本を読んでもらい、それ以来、物語の世界が大好きになりました。生まれたときからほとんど目が見えなかったので、盲学校で点字を習い、食事や睡眠と同じように日常生活の中で自然に本を読むようになりました。
大学生になってタイに来たとき、タイ人は本を読む機会が少なく、読書はつまらないと思っている人が多いことに気づきました。
10代後半から開発関係の仕事に就きたいと考えていた私は、このプロジェクトを立ち上げ、タイのあらゆる年齢の友人たちに読書の楽しさを伝えたいと思うに至りました。
本は人に力を与える強力なツールです。経済的に苦しい。僻地に住んでいる。あるいは私のように障害をもっている…。どんな状況にあっても、本は、自分では決して見ることのできない広い世界の知識を身につける手助けをしてくれますから。
ここまで来られたことに、とても感謝しています。
2009年に私の頭に浮かんだアイデアが、居心地のよい図書館とかわいい図書館車両、そして山岳民族の子どもたちのための2つの幼児教育センターになりました。
今では、日常業務のほとんどは、この地域の仲間たちが行ってくれてます。
アークをもっと独り立ちさせて、最終的には地元の人による地元の人のための団体にするのが、設立当初からの私の夢です」
こちらから、国際基督教大学の、堀内佳美同窓生インタビュー動画をご覧いただけます。
■ ランマイ図書館
ニックネーム:メー・ノック(ノック母さん)
「皆さんがランマイ図書館に来られたら、まず正面のカウンターでお迎えするのが私です。
本やDVDの貸し出しのお手伝いをしています。図書館に入れてほしい本があるときは、私に声をかけてくださいね!
ランマイ図書館の利用者さんのために、毎月、30~40冊の本と3~4タイトルのDVDを選んでいます。
また、図書館を訪れた方が思わず楽しくなってくださるように、季節ごとの飾りつけをするのも私の大切な仕事です」
ニックネーム:ノン・ブン(ブンちゃん)
「毎週3、4回、この図書館トラックで、寺院や村、山岳民族の子供たちの寮など、さまざまな場所を図書館訪問しています。
トラックには、さまざまなジャンルの本が200冊ほど積まれています。
また、おもちゃやパズル、塗り絵なども持っていき、来てくれた子どもたちと一緒に手芸をすることもありますよ」
こちらから、ブンちゃんが中心となって取材された、NHKの放送番組をご覧いただけます。
ニックネーム:ノン・ニック(ニックちゃん)
「普段は図書館のバックオフィスにいて、みんなが仕事をしやすいようにちょこちょこいろんなことをやっています。
基本的には事務作業や帳簿付けを担当しています。
また、設立者である佳美さんのアシスタントとして、彼女のカレンダーの調整や写真の管理、タイ語の文書作成など、サポートをしています。
この仕事で一番好きなのは、幼児教育センターのフォローアップです。
運転手と一緒にセンターを訪問し、子どもたちにおやつを届けたり、学習教材が十分に揃っているかを確認したりしています」
■ 太陽の家
ニックネーム:ピー・ナレー(ナレー姐さん)
「私は、リス族として隣のチェンラーイ県で生まれ育ちました。
アカ族の夫に出会って、彼の村に嫁ぎ、それからずっとアカ族の人と暮らしを共にしてきました。
教員や幼児教育の専門知識があるわけではないんですが、自分の村の子供たちのために働きたいという気持ちから、太陽の家建設当初から働いています。
センターでは、子供たちにタイ語や英語のアルファベットの読み書きや、簡単な数の概念を教えて、街の幼稚園や小学校に入ったときに、子供たちが周りのタイ人の子供たちに引け目を感じることがないように、教育の下地作りをしています。
私は歌が大好きなので、センターでも毎日子供たちとうたってますよ」
■ 笑顔の家
ニックネーム:ピー・クン(クン姐さん)
「ナレー先生と同じく、笑顔の家でもタイ語や英語の読み書き、数の基礎を教えています。限られた環境の中でも、子供たちにたくさんのことを吸収してほしいので、教材や指導法を、楽しみながら工夫しています。
私は、新しいことを学ぶのが好きで、海外からのお客さんが来られると、英語の練習をさせていただいたりしています。
現在、通信大学で幼児教育を学んでいるところです」
ニックネーム:ピー・ピム(ピム姐さん)
「センターでは、クン先生のサポートをしています。
クン先生が大きい子たちに読み書きなどの指導をしている間、小さい子たちの面倒を見ています。
子供たちに毎日元気をもらいながら、楽しく指導をしています。
笑顔の家は私の生まれた村にあるので、このセンターの役割の大きさは、誰よりも強く感じているつもりです」
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